【緊急寄稿】 第3回 最新の人口動向(修正版)

2023年10月6日 / 主席研究員 岸 泰之

 3回目の本稿では、東急線沿線17市区※1(以下、「東急線沿線」と記す)について着目して解説を試みる。

要約
・2022年に人口減少した東急線沿線では、2023年に入って外国人住民の反転急増により、人口が持ち直す様相を見せている。
・特に、「東横エリア」では外国人住民だけではなく、日本人も継続して増加している。

 

■外国人の増加により東急線沿線では総人口は回復傾向
 東急線沿線の総人口(日本人+外国人住民※2)は、2022年に減少となったが、2023年には再び人口増に転じている。ただし、2023年時点で5,518千人と2021年の5,521千人よりは少ない状況にある(図表1)。
 

      【図表1】東急線沿線の2013~2023年の人口推移 ※3
 
    

 

 次に東急線沿線の人口増減について、日本人と外国人住民とに分けて推移を見ると、日本人人口は2021年をピークに2022年、2023年と継続して減少している。
 一方、新型コロナ禍の2021~2022年と減少が続いた外国人人口は、2023年に反転して急増し、新型コロナ禍直前の2020年※4を上回る人口となっている(図表2)。
 ここから分かるように、2022年から2023年にかけての東急線沿線の総人口の回復は、外国人住民が再び増加したことによると言える。
 ちなみに、10年前(2013年)の東急線沿線における外国人住民の総人口に占める比率は2.2%であるが、2020年時点で2.9%に上昇、その後一時的に比率が低下したものの、2023年には3.0%と上昇している。
 

      【図表2】東急線沿線の日本人および外国人住民の2013~2023年の人口推移 ※3
 
    

 

■同じ東急線沿線でもエリアにより日本人と外国人住民の人口推移に差異がみられる
 次に東急線沿線を4つのエリア別※5に見ることにする。
 「渋谷・山手エリア」と「池上・多摩川エリア」の沿線都区部エリア、および「田園都市エリア」ではいずれも総人口(日本人+外国人住民)は2022~2023年では横ばいで推移している。
 これに対して「東横エリア」では増加傾向が継続している(図表3)。
 

      【図表3】東急線沿線のエリア別の2013~2023年の人口推移 ※3
 
    

 

 次に、東急線沿線の各エリアにおける日本人と外国人住民に分けてみることにする。
 「渋谷・山手エリア」※5では、日本人が2021年をピークに減少する一方、新型コロナ禍の2021~2022年※4に減少していた外国人住民が反転して急増している(図表4)。
 これにより、同エリアでは2021年と比べて総人口が減少しつつも、2022~2023年では人口規模を維持している(図表3)。
 

      【図表4】「渋谷・山手エリア」の日本人と外国人住民の2013~2023年の人口推移 ※3
 
    

 

 「渋谷・山手エリア」と同じ都区部の「池上・多摩川エリア」※5においても、同様の傾向が見られる。すなわち、日本人人口は2022年以降減少しているが、2023年に外国人住民が増加に転じたことで(図表5)、総人口は2021年をピークに減少しているものの、2022~2023年は人口規模を維持している(図表3)。
 

      【図表5】「池上・多摩川エリア」の日本人と外国人住民の2013~2023年の人口推移 ※3
 
    

 

 東急多摩田園都市を内包する「田園都市エリア」※5では、日本人は2022年をピークに2023年は減少している。一方、外国人住民は2013~2020年まで人口増が続いた後、2021~2022年まで横ばいとなり、2023年になって再び増加している(図表6)。
 その結果、「田園都市エリア」の総人口はこれまで続いていた人口増が止まったものの、2022~2023年では横ばいを示している(図表3)。
 

      【図表6】「田園都市エリア」の日本人と外国人住民の2013~2023年の人口推移 ※3
 
    

 

 最後に「東横エリア」※5について見ると、日本人の人口は2021年以降も減ることなく増加が続いている。外国人住民の人口は新型コロナ禍の2021~2022年では減少していたが、2023年には再び増加に転じている(図表7)。
 その結果、大勢を占める日本人が継続して増加したこともあり、他の3エリアとは異なり、総人口は継続して増加傾向を示している(図表3)。
 

      【図表7】「東横エリア」の日本人と外国人住民の2013~2023年の人口推移 ※3
 
    

 

 以上から分かるように、東急線沿線においても人口増減の面で規模こそ小さいものの外国人住民の存在感が増している。
 そこで、4エリアごとに外国人住民の総人口に占める比率を見ると(図表8)、「東横エリア」が最も高く、反対に「田園都市エリア」が最も低い。
 見方を変えると、海側の「池上・多摩川エリア」と「東横エリア」では外国人住民比率が高く、内陸側の「渋谷・山手エリア」と「田園都市エリア」は相対的に外国人住民比率が低いとも言える。
 

      【図表8】東急線沿線のエリア別の2013~2023年の外国人住民比率の推移 ※3
 
    

 

 ところで、この総務省の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」では、外国人住民の国籍までは公表していない。
 そこで、2020年の国勢調査から東急線沿線全体および4エリアにおける外国人住民の国籍の比率を見ると(図表9)、中国籍住民の比率が他の国籍よりも高いことが分かる。特に中華街(横浜市中区)が含まれる「東横エリア」では44%と他の3エリア(30%前後)と比べても顕著に高い。
 中国籍以外の外国人に着目すると、「渋谷・山手エリア」における韓国・朝鮮籍やアメリカ籍の住民の比率が他の3エリアよりも高い。
 一方、「田園都市エリア」では、韓国・朝鮮籍、中国籍、フィリピン籍、タイ籍以外の「その他アジア(国籍)」の住民の比率が他の3エリアよりも高い、という特徴が見られる。
 このように、東急線沿線内でもエリアにより人口構造(日本人と外国人住民)が異なることが分かる。
 

      【図表9】東急線沿線のエリア別の外国人の国籍比率(2020年) ※6
 
    

 

 次回の稿では、首都圏で人口増加が見られる埼玉県さいたま市や千葉県流山市などの郊外地をいくつか取り上げて、それらの人口動態について詳しく見ることにする。
 

※1 「東急線沿線17市区」とは、東京都の品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区、町田市、神奈川県横浜市の神奈川区、西区、中区、港北区、緑区、青葉区、都筑区、同川崎市の中原区、高津区、宮前区、同大和市を指す。
※2 資料の原典である総務省公表の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」の表記の通り。この「外国人住民」は住民票を有する外国人(個人番号の通知対象)であり、観光やビジネスを目的とする短期滞在は含まない。
   なお、図中では記述を簡素化するために「外国人」と記している。
※3 図表はいずれも、「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(総務省)に基づき、東急総合研究所が作成
※4 「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」に基づく人口等は、各年の1月1日時点のものである。なお、日本での新型コロナ感染症(COVID-19)の拡大(略称、「新型コロナ禍」)は1月以降といわれており、住民基本台帳上の人口における「2020年(1月1日時点)」は、新型コロナ禍直前を示すものと考えられる。
※5 東急線沿線4エリアとは、東京都目黒区、世田谷区、渋谷区からなる「渋谷・山手エリア」、東京都町田市、神奈川県横浜市緑区、青葉区、都筑区、川崎市高津区、宮前区、大和市からなる「田園都市エリア」、神奈川県横浜市神奈川区、西区、中区、港北区、川崎市中原区からなる「東横エリア」、東京都品川区、大田区からなる「池上・多摩川エリア」を指す。
※6 国勢調査にもとづき、東急総合研究所が作成