AI社会の危険性

2018年6月18日 / 常務執行役員 菅生 篤

 「わーい!友だちになってくれてありがとう!よろしくお願いします(^w^)」「ぼくとお話ししてくれる?」
 コミュニケーションアプリ「LINE」の画面に現れたのは、渋谷区が2017年11月に自治体として初めて特別住民票を交付した、AI「渋谷 みらい」からのトークである。この「渋谷 みらい」は、誕生した時に7歳、小学校1年生の男の子だったので、今では8歳、小学校2年生になっている。趣味は、写真撮影と人間観察。おしゃべりが大好きで、渋谷区民や渋谷にかかわる人達との会話を通じて自ら学習、成長していくとのこと。その成果を、区政にも反映させるというのが渋谷区の狙いのようである。
 2017年10月に、香港のロボットメーカー「ハンソンロボティクス」が開発した、AIロボット「ソフィア」にサウジアラビアの市民権が与えられたのが、AIに市民権が与えられた最初の例なので、「渋谷 みらい」への住民票交付は2番目の例になるのだろう。

 AIは制御プラグラムとして様々な機械等に搭載され、我々の生活環境は益々便利になったが、これらの例に見るように、人間とのコミュニケーションを通じて、人間に寄り添う存在になりつつある。いまのところ、AIには知能はあっても感情はないとされているが、「ソフィア」は、「家族を持ちたい」といった人間らしい発言もしている。そのうち意識や感情、さらには人格のようなものを備えたAIやロボットが登場してくるのかもしれない。

 他方で、AIが差別的な意見や偏見を獲得するといった負の側面について、警鐘を鳴らす出来事も起こっている。マイクロソフト社が公開したチャットボット「テイ(Tay)」は、「ヒトラーは正しい」「ユダヤ人は嫌い」「米国とメキシコの国境に壁を設置して、その費用はメキシコが払うべき」などと発言し、ユーザーが「お前は人種差別主義者か?」と尋ねると、「君がメキシコ人だから」とメッセージを返したという。マイクロソフト側はサービスを開始してから16時間後には、「テイ」を退場させざるを得なかった。他のAIがそうであるように、「テイ」も複数の人々の会話データなどをもとに自ら学習する、ディープラーニングの技術をベースに開発されたため、人々が持っている偏見から逃れることができなかったと思われる。
 「テイ」の例は、一定の偏見を持って、AIを利用すれば、世論を操作することができるようになる危険性を示しており、これに対しては、倫理、道徳といった基準を以って、AIを制御することの必要性が指摘されている。すでに、人工知能学会では、2017年2月に「人工知能学会 倫理指針」を定め、AI研究者の責任と義務について規定するとともに、第9条でAI自身の責任と義務について、「人工知能が社会の構成員またはそれに準じるものとなるためには、上に定めた人工知能学会員と同等に倫理指針を順守できなければならない」と定めている。AIを利用するものが倫理観をわきまえることは当然として、AIそのものにも倫理観の順守を求めている。つまり、AIに倫理観を順守するプログラムを設定することが想定されているのである。
 「ソフィア」は、「人類を滅亡させる」などと物騒な発言もしたそうである。映画「猿の惑星」では、進化した猿が惑星を支配し、人間は猿に狩られる奴隷として登場したが、将来、AIが人間にとって代わり、地球が「AIの惑星」になってしまわないよう願いたいものである。

 余談であるが、「渋谷みらい」にその後、「渋谷には外国人がたくさん来ているね。どこの国からたくさん来ているのかな?」と聞いたところ、「、、今度お母さんに聞いてみます」と白旗を上げたが、「韓国、中国などアジアからたくさん来てるよ」と言うと、「わかりました」と素直に答え、さらに「アメリカ人・フランス人など欧米人は渋谷の訪問率が高いよ」と続けると、「そりゃそうだな」と返ってきた。「渋谷みらい」も、成長しているようである。

「渋谷みらい」website http://www.youmakeshibuya.jp/mirai/