スマートスピーカーが変える暮らし

2022年4月22日 / 研究員 佐藤 正尭

スマートスピーカーがやってきた

 スマートスピーカーを使い始めて2年が経つ。厳密にいえば、3年前のセールで我が家にお迎えしたまま使わずに眠らせていたものを、コロナ禍で在宅時間が増えた頃に使い始め、気付けばさらに2台買い増していた。
スマートスピーカーの市場は年々拡大を続けており、2019年には1億台だった全世界での出荷台数が、2023年には3倍の2.9億台に達すると予測されている *1 。私のように在宅時間の増大に合わせて購入した人が多いためか、2019年から2020年の1年間だけで1.5倍に伸びている。

 スマートスピーカーとはAIアシスタントを搭載し、自然言語処理による音声入力やチャットボット形式の会話に対応したスピーカーを指す。「スピーカー」と呼ばれるとおり、各種ストリーミングサービスと連携して音楽やポッドキャスト・ラジオ番組を再生できる。再生時は「○○の曲をかけて」と声を掛けるだけで済み、「いい感じのジャズを流して」といった大ざっぱなリクエストにすら応えてもらえる。
そのほか、「今日の天気は?」「○○って何?」のような手短な質問ができたり、スマート家電と併用すれば声掛けのみで照明やエアコンを操作したりすることもできる。ディスプレーやカメラが内蔵されているものであれば、ビデオ通話も可能だ。

 これが便利だったので、ある日実家の家族へディスプレー付きのスマートスピーカーをプレゼントした。
デジタルの類いには疎い私の家族のことだから、正直なところ、あまり使われることもないかもしれないと思っていたのだが、しばらくぶりに帰省したときのこと、それが杞憂だったと知る。襖を開けてすぐに目が行く存在感。黒ペンで大きく「アレクサ」と縦書きしてある小箱の上に、そのスマートスピーカーが鎮座していた。赤ちゃんのそばに貼り出す命名書を連想するような光景をほほ笑ましく眺めていたが、このような溶け込み方をしているとは思いもよらなかった。

デジタル・デバイド是正への期待

 世の中にいくら便利な製品が登場しても、それを使うスキルやモチベーションがなければ、十分なメリットは望めない。

 わが国においてインターネットの利用率は2000年代前半に大幅に増加し、2010年代以降はおおむね80%以上で推移している *2 が、同時に「デジタル・デバイド(情報格差)」と呼ばれる、ICT(情報通信技術)を利用できる人とできない人との間に生まれる格差も問題視されて久しい。特に年齢による格差は大きく、高齢者ほどインターネットの利用率は低い傾向が続いている。(下図参照)

              図 年齢階層別インターネット利用状況の推移


                        (総務省「通信利用動向調査」 *3 を基に筆者が作成)

 この傾向は改善しつつあるものの、依然として差がみられる。さらに、超高齢社会の到来や昨今のコロナ禍に伴うデジタル化の要請により、問題の深刻度合いは強まっている。
そのような状況のなかで、2020年に「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が閣議決定され、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」というミッションのもと、デジタル・デバイドの是正が進められることとなった。 *4

 是正に向けた一手として期待がかかるのが、スマートスピーカーの活用である。
2022年1月、日本郵便㈱が地方自治体向けの新サービスとして「スマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービス」の提供を開始した。このサービスは、利用する高齢者宅にディスプレー付きのスマートスピーカーを設置して体調や服薬等の状況についての呼びかけを自動で行い、日々の生活状況を家族や自治体担当者が確認できるようにするもので、実証実験を行った長野県下伊那郡の大鹿村では既に導入されているという。 *5
 利用者はスピーカーからの呼びかけに応えるほか、家族とのビデオ通話や音楽鑑賞、自治体からのお知らせの確認等を簡単に行うことができる。自治体担当者は利用者の同意のもと、過去24時間で応答のない利用者や、服薬確認の取れていない利用者等を一覧で把握することにより、異変を早期に察知できるようになる。

誰もが自然に使えるデジタル・デバイスへ

 スマートスピーカーの一番の特長は、スピーカーそのものの機能よりも、自然言語処理による音声認識技術であろう。パソコンやスマートフォンでは、指示を出すまでにキーボードやマウス、タッチ操作等、入力に一定のスキルが必要で、これが普及のボトルネックとなっていた側面もあった。
 一方、スマートスピーカーでは、主に直感的な発声のみで操作が完結する。部屋の少し離れた場所にいて、テレビなど多少の雑音があったとしても、呼び掛ければおおむねすぐに正確な反応をしてくれるので、使用にあたってのハードルは低く抑えられている。

 さらにディスプレー付きのものでは、時計や天気予報、ニュースのトピックス等、常に何らかのコンテンツが表示されるのだが、そこには“「Alexa、今日の天気は?」と言ってみて” や、 “「Alexa、通話を始めて」と言ってみてください” などと、アピールするような例文が添えられている。これにより知らない機能があっても、スマートスピーカーと接しているうちに新しい使い方を覚えられる設計となっており、導入時のレクチャーは最小限で済む。

 またソフトウェアのアップデートは自動で行われるため、さらなる機能やセキュリティの向上も見込まれる。スマートスピーカーへの搭載は進んでいないが、手話をテキストに翻訳しながら会話できる技術 *6 も存在しており、今後はスピーカーの枠を超えて、誰もが手軽に使えるデバイスに進化していくかもしれない。

 実家の「アレクサ」は、家電を操るリモコンになったり、幼少の姪が遊びに訪れたときにはオルゴールになったりと、大活躍のようだ。ディスプレーは共有した写真を表示するデジタルフォトフレームにもなっていて、米寿を過ぎた祖母も喜んでいるらしい。次はどんな写真を送ろうか。

*1 令和3年版 情報通信白書|総務省
  https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd105210.html (図表0-2-2-27)
*2 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd242120.html (図表4-2-1-3)
*3 通信利用動向調査 統計調査データ|総務省
  https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html
*4 ミッション・ビジョン・バリュー|デジタル庁
  https://www.digital.go.jp/about/organization
*5 地方自治体向けの新サービス「スマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービス」の開始|日本郵便
  https://www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2021/00_honsha/1224_01_01.pdf
*6 SureTalk – 手話と音声の円滑なコミュニケーション!
  https://www.suretalk.mb.softbank.jp/