サステナブル・デジタル田園都市

2022年3月22日 / 主席研究員 太田 雅文

 本コラムの執筆は1年半ぶりです。前回、コロナ禍により大きく世の中は変わる、すなわち鉄道やオフィス床ニーズは最大3割減るものの、都心、郊外、地方都市とも、いずれも職と住とがバランスの取れた都市構造へと導く良いチャンスなのでは、と書きました。実際、その後の関東大手民鉄輸送人員は対2019年同月比で70~80%のあたりをさまよい、2019年末には1.5%程度であった都心オフィス空室率は今6%超と4倍にもなっていますが、当たらなかったのは「都会から地方都市への移住が進むであろう」という予想です。確かに、東京23区の人口は2020年7月から転出超を続けていますが、その行き先は主に郊外で、期待された地方都市への移住による「地方創生」の流れは作れていません。
 一方、コロナ禍により一挙に広がったのはオンライン会議です。DX技術の進化は、離れていても情報の共有、共感を生み出すことができ、実際にその場所を訪れなくてもまちづくりに貢献できる交流人口は広がります。実際、コロナが少し収まり在宅勤務が減ってもオンライン会議は増えています。デジタルにより、大都市に偏在していたリソースを地方でも活用できることでお互いが元気になれるのではないでしょうか。この発想に基づき進められているのが「デジタル田園都市国家構想」政策です。
 ところで、「田園都市」といえばまずは東急田園都市線や多摩田園都市に代表される大都市の郊外が思い浮かぶのではないでしょうか。元々、英国人ハワードが提唱した郊外の自己完結型衛星都市”Garden City”の理念に賛同した渋沢栄一の思いを受け、小林一三や五島慶太が鉄道とともに発展・成長する「沿線」というエリアの概念です。脱炭素や循環型社会、多様性・社会的包摂等々が持続することを目指すサステナブル経営を標榜する企業が増え続けている今日、沿線の田園都市マネジメントをなりわいとする民鉄がいずれも地域社会への貢献を通じた持続的発展を重要課題(マテリアリティ)として掲げ、そのための施策を単なる慈善事業としてではなく、自社の経営戦略の根幹として位置付けるようになってきました。
 民鉄沿線の端には池袋、新宿、渋谷のようなターミナルが位置し、郊外に向けた鉄道軸上には、所沢、聖蹟桜ケ丘、町田、たまプラーザ、上大岡など百貨店等リテール事業を核とした拠点が連なります。川越や下北沢、自由が丘のように、大型商業施設はなくても個店が連なるウォーカブル空間が際立つ街もあります。自社だけでなく、周辺リソースとも上手に連携しながら価値を創造する独特のビジネスモデルです。
 このリアルなサステナブル田園都市をより有効活用し、東京のような大都市の独り勝ちではなくよりバランスの取れた国土の発展に導く上で着目すべきは、民鉄各社が地方に持つ拠点(たとえばホテル事業)です。これまで物理的距離がある故難しいとされていた連携がデジタルにより容易になります。地方都市には大都市にはないリソース、特に小さくても強いもの、”Small & Strong“がありそうです。これと大都市、特に自社線沿線リソースを連携させる、という発想です。メタバース、NFT(非代替性トークン)、クラウドファンディング等を活用したアート・エンタメ人材育成・支援、「農」を通じた地域間交流、イノベーション・スタートアップ支援などが具体的アイデアとして挙がってくるでしょう。渋谷から広がるリアルな東急線沿線は横浜や中央林間までですが、「バーチャル沿線」はさまざまな地方中核都市にまで広がり、地方創生へと結び付く「サステナブル・デジタル田園都市」です。そしてこのことは、これまで自社ブランドの認知率向上程度の非財務的価値にとどまっていた事業を、沿線価値向上をパーパスとするコングロマリットプレミアム発揮の原動力へと転換し、シナジー効果を発揮できるこれからのサステナブル経営の一端に位置付けられるのではないでしょうか。


      ※TOD:Transit-Oriented Development(公共交通指向型(都市)開発)