テニスとスタッツ分析

2022年12月5日 / 主任研究員 若本 一三

 テニスは昔からの趣味でごくたまにプレーするし、テレビのテニス中継も観戦することがある。そのテニス中継でおなじみの「スタッツ」について興味を持った。スタッツとは、ポイント間あるいはゲームやセットの節目ごとに画面に映し出される統計数字のことである。例えば、サービスゲームのキープにつながる「ファーストサーブの確率」はよく表示される。ほかには、「ウィナー」(決定打)とか「アンフォーストエラー」(凡ミス)なども出てくることがある。ファーストサーブの成功確率は、試合の勝敗に直結する場合が多く、ウィナーがアンフォーストエラーを大きく上回っていればその試合のプレーは質が高く、優位に進めていることがわかる。
 プロはスタッツデータに加えて、体力消費などもデータ化して、その膨大なデータの解析情報をAIで分析し戦術立案等にも活用しているようだ(※1)。IBMの手掛けるAIを用いて設計された「コーチ・アドバイザー」は、「1ポイントを取るために、どれだけの体力を消費し、身体に負荷をかけているか」を計測する。その判断材料となるのは、「フィジカル負荷」と「メカニカル運動強度」と定義される二大要素だ。フィジカル負荷は、選手の身長と体重などの体型に、走行距離と前後左右に移動する際の平均スピードを加味して算出する。メカニカル運動強度は、主に運動時の加速と減速の度合いから、身体にかかる負荷の累積値を計測するというものだ。コーチ・アドバイザーは、試合動画をチェックしながらそれらの数値をリアルタイムで算出し、グラフで可視化していく。そして、このツールを用いることで選手やコーチらは、試合展開およびポイントの獲得と、体力消費等の関連性を知ることが可能になる。それらの情報を分析することで、例えば、その選手が必要なのは持久力か瞬発力なのか、あるいは、効率よくポイントを取るための戦術立案や技術向上に生かすことが期待できるという。
 個人のスキルを気軽に売り買いできる日本最大級のスキルマーケットである「ココナラ」には、個人が撮影したテニスの動画からスタッツを作成してくれるサービスが安価で提供されている。私の友人にも自分の試合をスマホなどで動画撮影する人が増えてきたが、こうしたサービスを合わせて利用すれば、自分のプレーの強みや弱みがデータからも明らかにできる。もしかしたらテニスの上達に飽くなき努力をするライバルたちは、もう利用しているかもしれない。昔からテニスでも頭脳プレーという言葉を使うが、今の頭脳プレーにAIが入ってきているなら、うかうかしていると差が広がるばかりだ。

※1 THE DIGEST https://thedigestweb.com/tennis/detail/id=3092