時代によって変わる「おいしさ」

2018年7月17日 / 副主任研究員 長尾 義弘

 食べ物の「おいしさ」というと何を想像しますか。人によって「おいしさ」は様々だと思いますが、時代によっても「おいしさ」の基準は、変わってきているのではないかと思われます。
 私自身が過去に肉の販売に携わっていた経験があり、その時に感じたのは、人々が肉を「おいしい」と感じる基準が、「味」から「やわらかさ」に変わってきているということです。
 以前は、圧倒的に味が重要視されていました。牛肉でいう黒毛和種のように、脂肪交雑(霜降り)がきめ細かく、「こく」のある肉が好まれていました。例えば「松坂牛」「神戸牛」「近江牛」等の日本三大和牛に代表されるようなブランドがこうした肉に当てはまります。
 しかし、ここ10年ほどでしょうか、肉のおいしさが「やわらかさ」に変化したと感じます。これまでは絶対的な「味」が評価の主軸でしたが、「やわらかい肉がおいしい」という評価に大きく変わりました。この変化については、様々な見方がありますが、私は日本人の食への探求心が起因していると考えます。もともと日本人は食へのこだわりが強いため、肉に対する探求心の先に「やわらかさ」を見つけ出したのだと思います。
 牛肉では、「希少価値部位」という各部位の中でもやわらかく上質な肉が注目されたり、褐毛和種「あか牛」に代表される、良質でやわらかい赤身の肉が好まれるようになったことが挙げられます。このように、「味」の先にある「やわらかさ」が重要視されるようになったのです。
 さらに近年では、肉を選ぶ基準として、個々のニーズが非常に多様化(細分化)したと感じます。ブランドなどにこだわらない、個々の好みを優先した、おいしさの追求が定着しているように思います。「赤身の肉を厚切りでもやわらかく食べたい」「やっぱり黒毛和牛のような味のある霜降り牛肉が好き」「歯ごたえのある輸入牛をやわらかく食べたい」など、様々なこだわりが増えました。
 肉に対するおいしさの追求が進化したことにより、事業者側としては顧客の嗜好を分析しながら、可能な限り広いタ-ゲット層を捉えていくことが必要となります。私も一人の消費者としては、個々のニーズに対して可能な限り対応してくれる企業というのは大変ありがたく魅力的です。一方、こうした顧客ニーズの変化に、どう対応していくか、事業者側にとっては非常に難しい課題だと感じています。

希少価値部位:牛を分割時にできる希少価値の高い部位のこと。
       「シャト-ブリアン」「ミスジ」「イチボ」など。