カーシェアリングとこれからの住まい選び
先日、超小型EVのカーシェアリング「Ha:mo RIDE」を利用する機会があった。「Ha:mo RIDE」は2013年から実証運用を開始し、規模を拡大しながら愛知県豊田市で展開している都市交通システムである。会員登録をすれば、1~2人乗り用電気自動車“COMS(トヨタ車体)”が利用でき、主要駅や企業、商業・公共施設など、市内約60か所 (注1) に設けられた拠点での乗り捨てが可能である。利用にあたっては、アプリやWebサイト経由で乗車前30分以内に出発地と目的地、利用車両を予約しておく必要がある。また、出発地に利用可能な車両、目的地にHa:mo専用スペースの空きがあることが利用条件となるため、適宜スタッフが車両を適正な配置に回送移動しているそうだ。
コンパクトな外観のCOMSだが、車内は標準体型の成人男性がゆったり座れる広さとなっている。カーシェアリングは他人とクルマを共有するという性質上、利用前後に自身での車両確認が必要だが、COMSは小型で構造もシンプルなため、確認に要する手間が少なくて済む。ただし冷暖房は用意されていないので、外気温に合わせて服装を選ぶなどの工夫は必要そうだ。(当日はまだ春も浅かったので、日が陰ってくると手がかじかんだ。)
運転してみると、車体のスリムさゆえに、狭い道でも安心して走れる。小回りもよく利くので、普段は敬遠しがちな縦列駐車なども試してみたくなった。走りはというと、上り勾配や時速40km以上での走行では速度が伸びず、それなりの高負荷がかかっているような駆動音がした。そのほか、ブレーキの効きが鋭いなど全体的に硬さを感じるが、慣れてくると低速ではむしろ走りやすいと感じる場面も多かった。
乗車中、周囲に目を向けると、主に高齢者の方々がしばしば物珍しそうにされていた。5年以上の運用実績があることを考えると、やや意外に思われた。
一方で印象的だったのは、ファミリー向けの大規模マンションが林立するエリアにおいて、10台分もあるHa:mo専用スペースに車両が1台もなく、すべて出払っているという状況が見受けられたことである。同エリアでの利用の多さは注目に値する。
ところで、大規模マンションの購入時には2台目の駐車場確保が困難な場合が多い。筆者自身、不動産販売業務に従事していた際に、クルマを2台保有したいという検討者向けにカーシェアリング拠点に関する資料を作成したことがある。不動産販売の現場において、セカンドカー需要への対応の切り口としてカーシェアリングが引き合いに出されるケースは、今後も増加していくものと思われる。
クルマにかける費用が抑えられるといったカーシェアリングの利点は、不動産の付加価値を高める要素としてすでに多方面で活用されている。たとえば「三井のリハウス」「三井のリパーク」等の事業を運営する三井不動産リアルティ株式会社は、2017年に「カレコ」を運営するカーシェアリング・ジャパン株式会社を合併し、カーシェアリング利用を含めたローンシミュレーションをもとに、ワンランク上の物件購入を提案するなどしている。
カーシェアリングは需要の高まりとともに、その用途も多様化している。今回利用したHa:mo RIDEは近距離移動に適した超小型EVを採用しており、朝は駅から職場への移動、夜は職場から飲み会への移動といった乗り捨てならではの利用のほか、土地の隠れた魅力あるスポットを巡る観光パックでの利用も多いという。他のカーシェアリングも、高級車をラインナップに追加した趣味嗜好への需要に対応したもの、月額料金がかからず日常利用を想定しないものなど選択肢が増え、サービスの間口が広がっている。
このように多様化したカーシェアリングは、特に若年層において浸透が進んでいるようだ。前述した三井不動産リアルティ株式会社の調査によれば、20代から30代の男性の利用が多い (注2)。とりわけ首都圏の若年層にみられる都心志向に鑑みると、高額な駐車場料金を避け、クルマは保有せず身近にあるカーシェアリングのような形で代替しようとする動きや、クルマとは別の部分に時間やお金をかけようとする動きは、一層強まっていくと思われる。
こうした移動利便性の高まりを前提として住まいの提案をするならば、そこに住むことで叶えられる具体的な目的(ベネフィット)をイメージさせることが、より効果的となってくるだろう。すなわち移動を媒介として「住みたい」と「したい」とを直接的に結び付ける、ある意味MaaS (注3) 的な視点での提案が、重要性を増していくことになる。生活者にとっては、これからの住まい選びはもっと楽しいものになるかもしれない。
注1:2019年4月現在(Ha:mo RIDE公式ウェブサイトより)
https://hamo-toyotacity.jp/
注2:カレコ・カーシェアリングクラブ「会員アンケート2016 調査結果のお知らせ」
https://www.careco.jp/news/9233/
注3:MaaS(Mobility as a Service)
(日経クロストレンドより引用)
“出発地から目的地の移動を最適化し、サービスとして提供する”概念
https://trend.nikkeibp.co.jp/atcl/contents/skillup/00008/00010/