キッズシネマに感じた希望

2024年8月30日 / 研究員 六鹿 マリ

 7月25日、相鉄線ゆめが丘駅前の新しい複合商業施設「ゆめが丘ソラトス」内に、「109シネマズゆめが丘」が開業した。それに先駆けて行われた内覧会で、筆者は施設内を見学させていただいた。
 設備の目玉のひとつは、最新スペックの「Screen X」(正面スクリーンに加えて左右の壁面にも映像が投影される3面ワイドビューシアター)だ。実際にプロモーション映像を鑑賞したところ、まるでアトラクションに乗って画面に飲み込まれていくようなダイナミックさで、これまで経験したことのない没入感に驚いた。また、エリア最大級の「IMAXレーザー」も導入されている。
 座席は、通常席の他に、荷物やフードを置くのに充分なスペースとリクライニング機能を備えたエグゼクティブシートがあり、1ランク上の鑑賞環境を実現できる。さらに、通常席でも両側に自分のひじ掛けが付いていて、ゆったりと座れた。これは他の映画館ではあまり見たことがなく、嬉しい驚きだった。他にも、当日中おかわり自由のドリンクステーションなど、ハード面・ソフト面ともに魅力的なポイントがさまざまある。

 その中でも特筆すべきなのは、「KIDS CINEMA(キッズシネマ)」だ。小さな子ども連れが安心して映画を観るための専用シアターで、通常よりも照明は明るめ、音響は小さめにするなどの配慮がされている。途中で子どもが泣いたり立ち歩いたりしても構わない。定期的なイベントとして乳幼児対応のシアターを実施している劇場は近年珍しくないが、ここは関東初の常設キッズシアターだ。
 ロビーから入場口を抜け、一般のスクリーン群が並ぶ方向とは反対側にある専用のエリアへ進んでいくと、カラフルなアーチが見えてくる。その下をくぐっていくと、まず上映前に入ることのできるキッズスペースがある。映画館特有の高い天井と、大きな窓があり、開放的だ。ベビーカーの収納場所もたっぷり用意されている。
 靴を脱いで「KIDS CINEMA」のシアター内にあがると、色とりどりのシートが並ぶ。小さな子どもが座りやすいよう低めにつくられているが、大人が座ってもゆったりしている。壁もカラフルに塗られていて、上映前からわくわくする空間になっている。さらに、シアター内にもプレイスペースがあり、上映中に飽きてしまってもそのまま遊ぶことができる。
 このような特別な場所で小さいときから映画館体験ができるというのは、とても豊かなことだと感じた。

 多様な動画配信サービスが充実する今日、映画館にわざわざ行く必要はないと思う人もいるかもしれない。
 しかし、映画館でしか体験できないコトや、映画館ならではの良さというものがある。以前のコラムでも述べたような、大画面や上質な音響で感じる迫力、3Dや4Dといった特殊な効果、あるいは応援上映(※1)のように大勢が集まって鑑賞することによるイベント性といったものもさることながら、何よりも、「半ば強制的に映画に集中させられる環境」に身を置けるということが、映画館の一番の良さではないだろうか。スマホひとつあれば映画が観られるこの時代に、わざわざお金と時間を使って映画館まで足を運ぶということは、映画に没頭する時間と空間を買いに行っているのだと実感している。どこでも手軽に観られるからこそ、映画館の体験価値はむしろ高まっているのではないか。

 幼少期の体験がその後の価値観に与える影響は大きい。自身を振り返ってみても、筆者が映画館や劇場といったリアルなエンタメ空間を好むのは、子どもの頃からそのような場所に連れられて行っていた経験が少なからず影響しているように思う。
 今の子どもたちは生まれたときからスマホを使いこなす「スマホネイティブ世代」と言える。しかし、「KIDS CINEMA」で映画鑑賞をしてたくさんの楽しい思い出をつくる子どもたちは、きっと映画館での体験に価値を見出す大人になるのではないか。いち映画館好きとしてはそう思っている。

※1:鑑賞中に観客が発声することが認められている特別な上映形態。声援を送る、劇中歌を合唱する、セリフを唱和するといった楽しみ方ができる。