キャッシュレス社会における造幣局の役割

2023年12月27日 / 副主任研究員 鈴木 孝義

 先日、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)において、会場内での現金を取り扱わないことが発表された。キャッシュレス決済の本格導入は国際博覧会として初めての試みになるという。それに先駆けて、関西エリアの主要私鉄である阪急、阪神、近鉄は2024年中に各社のほぼ全駅でクレジットカードなどのタッチ決済による乗車を可能にするという。
 経済産業省によると、2022年のキャッシュレス決済比率は36.0%(111兆円)と年を追うごとに上昇している。このうちクレジットカードが30.4%(93.8兆円)、デビットカードが1.0%(3.2兆円)、電子マネーが2.0%(6.1兆円)、QRコードやバーコードなどによるコード決済が2.6%(7.9兆円)となっている。政府は2025年にはキャッシュレス決済比率を40%、さらに将来的には80%を目指していくという方針を掲げており、今後ますますキャッシュレスが世の中に浸透していくものと思われる。筆者もクレジットカードとコード決済を利用することが多く、現金を使う機会がめっきり減ってしまった。
 

  【図表1】我が国のキャッシュレス決済額及び比率の推移
 
  

  (出所)経済産業省

 
 このようにキャッシュレス社会が進展し、日常生活において貨幣を扱う機会が減少してきた中、貨幣を製造している造幣局の役割が失われてしまうのではないかと疑問が湧いてきた。
 戦後の貨幣製造枚数の推移を確認すると、高度経済成長を背景に貨幣製造枚数は増加し、ピークの1974年には56億1000万枚を製造。その後、1989年の消費税導入に伴い少額貨幣需要が増大し、1990年には1円玉の製造枚数が過去最高を記録した。一方で、近年は減少傾向が鮮明となっており、2022年の製造枚数は7億2734万枚と、製造枚数のピークであった1974年からおよそ9割も減少している。
 

  【図表2】我が国の貨幣製造枚数の推移
 
  

  (出所)独立行政法人造幣局の資料をもとに東急総合研究所作成

 
 2000年以降の製造枚数の減少は、電子マネーをはじめとしたキャッシュレス決済の普及が大きな要因になっていると考えられる。
 キャッシュレスの普及は造幣局にとって逆風とも思えるが、改めて造幣局の事業について確認をしてみたい。貨幣製造事業として、1円、5円、50円、100円、500円の各種貨幣の製造、収集を目的としたプルーフコインの製造、デザイン性を高めたカラーコインの製造が挙げられる。国内貨幣だけを製造しているわけではなく、偽造防止など高い技術力が国際的に評価され、ジョージア、バングラディッシュなど10か国15種類の外国貨幣の製造も行っている。なお、紙幣(日本銀行券)の製造は造幣局ではなく、国立印刷局で行われている。
 貨幣製造事業以外では、勲章や褒章、金属工芸品を製造している装金事業があり、東京オリンピックの金・銀・銅メダル、国民栄誉賞楯などが代表例となっている。他にも、貴金属の純度を調べる試験検定事業、技術研究をしている研究開発事業があり、造幣局の事業は多岐にわたっている。
 造幣局のホームページ上にアクセスしてみると、オンラインショップがあり、造幣局の製作物をインターネットで気軽に購入することができる。昨年は週刊少年ジャンプ(集英社)に連載中の人気作品である「ONE PIECE(ワンピース)」とコラボをした貨幣セットを販売されるなど、キャラクター、記念行事、世界遺産などの様々なテーマを用いた商品開発が行われている。
 

  【図表3】「ONE PIECE(ワンピース)」の貨幣セット
 
  

  (出所)独立行政法人造幣局

 
 造幣局の令和5年度事業計画によると、「貨幣セットの購入者をはじめとする顧客に対し、アンケ-トによる満足度調査を実施し、5段階評価で平均して3.5を超える評価が得られるよう取り組みます。顧客アンケート調査等で得られたニーズを踏まえ、代金支払方法の多様化等のサービス向上に向けて取り組みます。」との記載があり、消費者ニーズをくみ取った今後の商品・サービス開発にも期待ができそうだ。現在販売されている「純金干支メダル(辰)」のお値段は1,280,000円(税込)。お金に余裕がある方はぜひ購入されてみてはいかがだろうか。
 キャッシュレス社会の進展により、現金を扱う機会が減少する中で、貨幣製造枚数が今後大きく増える可能性は少ないだろう。しかし、2021年に創業150周年を迎えた造幣局は、その長い歴史で培った技術を生かしつつ、時代に合わせた製品で我々を楽しませてくれるのではないだろうか。

(出所一覧)
2025年日本国際博覧会 プレスリリース資料
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20230406-01/

阪急電鉄 プレスリリース資料
https://www.hankyu-hanshin.co.jp/release/docs/1bafddc4d3c6c76443ce80dcc72f0d9a06e3e0a9.pdf

阪神電気鉄道 プレスリリース資料
https://www.hanshin.co.jp/company/press/pdf/20231102-keikaku-tattikessai.pdf
近畿日本鉄道 プレスリリース資料
https://www.kintetsu.co.jp/all_news/news_info/20231102_2.pdf

経済産業省「キャッシュレス将来像の検討会(概要版)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/cashless_future/pdf/20230320_2.pdf

独立行政法人造幣局 
https://www.mint.go.jp/