宴会料理とフードロス

2024年11月25日 / 主席研究員 川上 剛彦

 去る10月16日は国連が制定した「世界食料デー」であった。日本では、多くのNGO・NPOや行政機関等の公益・公的機関が主催・協賛主体となり、「『世界食料デー』月間2024」が開催され、食料問題について考えを深め、社会変革に向けた行動を起こす契機とするべく、各種の催事を行った。
 食料問題といえば、山積する種々の問題のなかでも、飢餓とフードロスは大きなイッシューとなっている。世界全体では、全人口を賄うだけの食料が生産されているのに、十分な食料を得られない人がいまだに絶えない。その一方では、大量の食料品が無駄に廃棄されているという現実がある。
 我が国でも年間472万トン(2022年度)(*1)もの食品が廃棄されているという。年々削減されつつも、大量の食品が無駄に廃棄されていることから目をそらしてはいけない。農林水産省(*2)によれば、国民全員が一日一個おにぎりを無駄に捨てている計算になるという。飢餓に苦しむ人々がいる一方で食料を無駄に廃棄していることが問題なのはもちろんのこと、食料自給率の低い我が国で、それが行われていることの重大さを忘れてはならない。自給できない部分は輸入に頼っているわけだが、そこには購入費用や環境負荷などさまざまなコストがかかっている。そんな貴重な食料を無駄にすることは、なんとしても避けていかなければならないだろう。

                        図 日本のフードロス発生量の推移
  
  (出所)環境省「我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和4年度)の公表について」(https://www.env.go.jp/press/press_03332.html 【2024年10月閲覧】)

 こうしたなか、改めてフードロスの問題を自分事として考えさせられる出来事があった。人づてに聞いた話だが、ある会社の宴会で、そろそろお開きかというとき、若い社員が上長たちに向かって、残った飲食料を平らげるように詰め寄ったというのである。
 話を聞いた当初は、その振る舞いに少し驚いたが、冷静に考えてみると、その若者の言うことは正論だ。その社員はテーブルを賑やかに彩った品々が食べ残され、廃棄されるのを見過ごせないと言ったそうだ。
 筆者は自身の日頃の行いを思い返してみた。お酒は好きだし、おいしいものを食べることも大好きだが、飲酒が主役の宴会の際は、あまり多くは食べられない。それゆえ、心ならずも食べ残してしまうことがある。
 難しいのは、宴会や会食を催すときだ。予算管理の都合や、手配の手軽さから、どうしても料金が確定している飲み放題付きの宴会コース料理や大皿料理、バイキング形式の料理を予約してしまいがちだ。飲食店側も、アラカルトに比べ事前の準備や段取りが平準化・パターン化されて、労力的にも経営面からも効率的なのだろう。
 しかし、これが悩ましいところで、必ずしも出席者全員の嗜好(しこう)に対応した料理や量ではないため、多少なりとも食べ残されてしまうことは少なくない。大皿料理やバイキング形式の料理は、お客様の手前、不足するようなことがあっては具合が悪いため、多めに供される傾向がある。また、コース料理は、あまり食べない私の分も公平に供される。食欲旺盛なメンバーがいれば積極的に譲るようにしているが、いかんともしがたく残してしまうことがある。そういったときはいつも心が痛む。
 どうしたらいいのだろうか。根本的には、社会的な理解とコンセンサスにもとづき、意識・行動と社会システムが変わっていく必要があるだろう。しかしその前に、少しの工夫でできることがないか考えてみた。
 
〇食べ・飲み放題プランの普及
 固定のコースに飲み放題をつけるのではなく、料理も飲み物と同様に、ある条件の範囲で、客側が自由に選択する。客は食べたいものだけを好きなだけ注文できる。
 中華料理店の一部では比較的よくみられる。

〇コース料理から独立した飲み放題プラン(飲み放題プラン単独で提供)の普及
 コース料理と抱き合わせで提供するのではなく、飲み放題プランを単独で提供し、料理はアラカルトでも注文できるようにする。客は食べたい料理だけを欲しいだけ注文できる。
 少数派ではあるが、採用しているお店はときどきある。

〇コース料理最後の締め料理提供時の選択オプションの普及
 当社内の若手社員によれば、コース料理の最後、締め料理の要・不要を選択でき、不要の場合は別途持ち帰り用のお土産が用意されるサービスがあるという。
 これならば料飲単価を確保しつつ、締めのお食事が食べられない客にも不利益が生じないため合理的である。

〇“ドギーバッグ(Doggy Bag)”の普及
 国(厚生労働省)でも検討がなされている(*3)が、自己責任を前提に、食べ残しを持ち帰る習慣を普及させるのも一つの手だろう。米国では一般的であり、
 筆者も初めてひとりで米国に行ったとき、食べきれず“Doggy bag please.”(*4)(ドギーバッグをください/持ち帰らせてください)とお願いをして、
 小腹が空くとホテルの部屋で平らげたものだ。

 いかがだろうか。ここに挙げたのは筆者が思いつくことを少し羅列しただけだが、こうしたことが広く普及するだけでもフードロスの減少に寄与できるのではないだろうか。
 筆者自身、宴会や会食をアレンジする場合は、上記のようなこと(とくに最初の2つのプラン)に目を配りつつ、手配するようにしている。
 一人ひとりの心がけ、日頃の行動が、社会の変容を促す基礎となる。日頃思うところを綴ってきたが、読者諸氏におかれても、身近なところでなにか工夫できることがないか、ご一考いただく契機となれば幸いである。

(*1)環境省ウェブサイト(https://www.env.go.jp/press/press_03332.html 【2024年10月閲覧】)
(*2)農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2310/spe1_01.html#main_content 【2024年10月閲覧】)
(*3)「食べ残しの持ち帰りに関する食品衛生ガイドライン検討会」(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syokuhin_436610_00010.html) 【2024年10月閲覧】
(*4)筆者が渡米していたのは、90年代~2000年代初頭のことで、最近は“doggy bag”という人はあまりいないという話も聞く。”to-go box“というのが一般的だそうだ。