少子化対策の前に、男女の出会いの壁
■少子化の現状と課題
日本の少子化は深刻だ。厚生労働省によると、2022年の出生数(速報値)はついに80万人を割った。この出生数は日本で人口動態統計を取り始めた1899年(注1)以来、最も少ない。この出生数の規模は20~30年後の出生可能な女性人口の減少を意味し、さらに少子化が加速することになる。
先ごろ国立社会保障・人口問題研究所が公表した最新の将来人口推計によると、直近の出生水準(合計特殊出生率1.34)が将来も続くと仮定した場合、中位推計では2056年には1億人を下回り、50年後の2070年には在住外国人を含む日本の総人口が8,700万人に、100年後の2120年には5000万人程度になるという。
少子化は、徐々に日本の社会や経済に深刻な影響をもたらすだけではなく、遠い将来ではまさに国の存亡にかかわる国家的な問題といえる。
こうした背景を踏まえて、現在の政府や自治体による少子化対策をみると、妊娠・出産・初期の子育てなど既婚夫婦への施策に偏重しており、子どもを産み育てる前段階の未婚化、晩婚化への対策は不十分ではないかと推察する。
試しに、今話題のChatGPTに「有効な少子化対策を教えて」と質問すると、「出産や子育てをサポートする制度の整備」「子育てに対する意識改革」「女性の社会進出の推進」「外国人労働者の受け入れ」という論点が列挙されるものの、未婚化や晩婚化の解決策に関する論点はあがっていない(2023年5月10日現在)。
内閣府が行った「平成30年度少子化社会対策に関する意識調査」によると、婚約中を除いた未婚の20~49歳男女のおおよそ75%は「結婚したい」と思っている。さらに、その約半数(未婚全体の約4割)が「適当な相手にめぐり合わない」ことをあげている。つまり、少子化対策においては、前提としての未婚男女の出会いが少ないことが最大の課題ではないだろうか。
■独自調査から浮かび上がる「出会いの“3つの壁”」
東急総合研究所は未婚男女の出会いに着目して、2022年に20~39歳の未婚男女を対象に「若者の出会い・恋愛・結婚・出産に関する意識・行動のアンケート調査」(注2)を行った。
その結果、未婚男女の出会いの阻害要因には、『知識・情報不足』『年齢』『雇用・所得』という“3つの壁”が明らかになった。
1つ目の“壁”、『知識・情報不足』では、未婚者の4人に1人が「恋活・婚活の仕方がわからない」という理由をあげている。
2つ目の“壁”である『年齢』については、現在の「交際状況」に関する質問に対し、男性では30代後半になると交際率は1割台へと大きく低下、一方、女性では20代後半で交際率がピークに達した後、30代後半には2割台まで低下する(図1)。また、女性は30代後半となると「交際相手が欲しい」という気持ちが薄れるようで、肌や髪のケア、ファッションセンス磨きなどの意識や行動が減退することも同調査からわかった。
3つ目の“壁”の『雇用・所得』は上述の個人に起因する2つの“壁”と異なり、その時代の社会経済の影響が大きい。図2に示すように、派遣社員・アルバイトなどの非正規社員の交際率は、正社員よりも顕著に低い。低賃金や不安定な雇用状態にある非正規社員においては、本心では出会いを求めているものの、自身の現状をかんがみてためらっている、あるいはあきらめているのかもしれない。
図1 交際状況(性・年代別)
図2 交際状況(職業別)
■出会い支援の方向性
では、この未婚の男女の出会いにおける「3つの壁」の解決の方向性について考察してみたい。
第1の“壁”である『知識・情報不足』については、上智大学の鬼頭宏名誉教授が提唱している「小学校から高等学校まで必修となった金融教育に、結婚、出産、育児、介護などを含む人生の過ごし方に関わる「ライフデザイン」を組み合わせる」という「ライフデザイン教育」の視点が有効と考える(注3)。筆者としては、その視点の中に高等学校における「出会い」を追加したい。この教育プログラムを小学生時から適用することで、思春期を通じて異性とのかかわり方を学ぶことで、適齢期において恋活・婚活の仕方も自ずとわかるようになると期待する。
第2の“壁”である『年齢』に着目すると、やはり若年層に対する「場」や「機会(企画、テーマ)」といった「出会いの場の提供」などの支援を行う必要がある。その支援に際しては、若者の異性に対する意識・行動にもとづくグループごとの特徴にあわせて行うことが重要と考える。
上述の東急総合研究所のアンケート調査結果から、そもそも異性との交際意向のない人を除き、未婚男女は3つのグループに分類することができる。以下に、その3つのグループの特徴を列挙すると、
グループ1:「交際意向はあるが、恋活・婚活をしていない」人のグループで、「異性との接し方が分からない、自然に出会いたい、趣味の場なら利用したい」という特徴がみられる。このグループに対する出会いの支援策として、「出会いを意識させない場の提供」が “鍵”になると考えられる。例えば、偶発的な出会いが期待できるシェアハウスや社員寮、大勢で楽しめる芋煮会やBBQ大会、趣味を絡めたイベントなどが想起される。
グループ2:「交際意向があって、恋活・婚活をしている」人のグループで、「自分磨きに関心があり、出会いの場に意欲的、職場関係の出会いに期待している」という特徴がみられる。このグループに対しては、「出会いを意識した場の提供」が有効といえる。例えば、信頼できるマッチングアプリ、未婚社員婚活パーティー、婚活イベントなどである。
グループ3:「交際相手がいる」人のグループで、「結婚する意向が高く、子どもを持つ意向も高い」という特徴がみられる。このグループに対しては、結婚や出産など次の段階へアシストすべく不安解消に向けた諸サービスを用意することが重要といえる。
第3の“壁”である『雇用・所得』については、個人の努力だけでは限りがあるので、政府主導による待遇改善、収入増に向けた取組みの強化が求められる。
■少子化対策は男女の出会いから
改めて、少子化対策の要諦は、出産後の子育て環境以前に結婚・出産意向のある(未婚)男女の出会いを支援することにある。その際には、『知識・情報不足』『年齢』『雇用・所得』という出会いの”3つの壁”を念頭に置いて、国、自治体、学校、企業、地域社会が協力しながら、出会いの「場」「機会」を創出するなどの支援を進めることが望ましい。
少子化は今後加速することから、出会いを含む少子化対策に一刻も早く取り組むべきだ。
注1:『日本帝国人口動態統計』、1899年に編纂開始
注2:渋谷30km圏(東京都・神奈川県)65市区の20~39歳未婚男女3,108人を対象に2022年10月31日~11月2日に実施
注3:「結婚嫌い、子ども嫌い?日本の少子化に出口はあるか」(上智大学 鬼頭宏名誉教授)
Wedge ONLINE「ニュースから学ぶ人口学」、2023年4月7日配信 (https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29924)