街の価値創造とSDGs
筆者は、これまで長い間GIS(地理情報システム)と街づくり・マーケティングをテーマに研究活動や事業開発に取組んできましたが、このGISを活用して、街づくりとSDGs(注)をどのように結びつけたらいいのか、ということについて考えてみたいと思います。
安倍内閣は、「すべての女性が輝く社会づくり」を推進しています。女性の活躍を阻むあらゆる課題に挑戦し、「すべての女性が輝く社会」を実現するという意味の裏には、きっと“根本的に人間に対する優しさ”という意味と、“共生”という概念が含まれているように感じます。世界的に進むIoTの波やAI・ロボット技術の活用などは、将来的に今にも増して急速に進展し、街づくりの仕方についても目覚ましい進化を遂げると思います。しかし、ふと足元を見つめ直したときに、いくら技術が進化したとしても、街に住む・働くあるいは訪れる私たちの声について、街づくりを担う人達に『本当に届くのだろうか?』、『情報共有・可視化という点でどうなるのか?』・・・『それで人間にやさしい世紀、共生は実現するのか』と思うことはないでしょうか。
例えば、地域社会における高齢化対策においても、十分に市民の声が届いているのかという点では、多くの課題を感じられる方も多いのではないでしょうか。市民参加型の街づくりや、今後求められる健康な都市環境づくりとなると一筋縄にはいきません。私たち市民が地域で気づいたこと、疑問に思ったことについて、「いつ・どこで・何が」という素朴な情報を、GISを活用してお互いに共有できる仕組みができると、もっとよいまちづくりに貢献できると考えています。
例えば、小学校・中学校・高等学校等で修学旅行や遠足・地域学習といった取り組みがあると思いますが、その地域に行って気づくこと・思うこと・感じることをデータとして蓄積し、GISを活用しながら皆で共有できるような仕組みあればどうでしょう。意外と気づかない景色や建築物含め、その街の新たな価値に旅行者が気づいてくれたり、あるいはゴミの放置問題や危険箇所の問題、高齢者が歩くと危ない場所など、様々な視点で情報が集まり共有できます。それによって対策を考え、街を開発する企画に活かすこともできるのではないでしょうか。
街づくりと聞くと、とかく行政や不動産開発を行う事業者の役割と思う方もいるかもしれませんが、行政や事業者側の問題だけではなく、そこに住む人・働く人・訪れる人・街の歴史・環境等々、様々な要素が複雑に絡み合って成立する活動であることはいうまでもありません。
そして、SDGsが目指す「誰一人取り残さない(no one left behind)」社会の実現という視点に立った時、こうした多様な要素を共有化・可視化できる情報インフラとして、GISはきっと役立つのではないかと感じています。以上のような視点で街の価値創造ができないだろうかと思い、渋谷の街づくりを例としてイメージ図を描いてみました。ご覧になってみてください。
(注)SDGsとは、2015年9月の国連サミットにおいて、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(原文:Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development)」が採択され、17のゴール(目標)とその下位目標である169のターゲットから成る「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」の略称。2030年までの国際社会全体の開発目標であり、「誰一人取り残さない(no one left behind)」社会の実現を目指し、経済・社会・環境をめぐる広範な課題に統合的に取り組むことを目標としている。