街中の温泉でプチ旅行気分

2021年11月2日 / 研究員 高橋 孝太朗

 2021年9月30日をもって、東京都や大阪府等の21都道府県に発令されていた緊急事態宣言が解除された。緊急事態宣言の解除により、日本各地で人の動きが活発になってきている。秋の行楽シーズンに合わせてお出かけの計画を立てられている方も多いのではないだろうか。

 コロナの感染状況が改善された際に、皆さんはどのようなことをしたいのだろうか。クロスマーケティング社の調査によると、1番多い回答が「(宿泊を伴う)国内観光旅行」で52.7%、2番目に多い回答は「外食」の51.1%であった。3番目に多い回答も「(日帰りの)国内観光旅行」で44.6%となっており、「旅行」を望まれている方が多く、「旅行」志向の高さがうかがえる。

 また、感染状況収束後に旅行先で最も行いたい活動について、日本交通公社の調査から確認すると、「温泉」との回答が16.4%で一番多い。
2021年10月27日現在、コロナ感染状況が収束しつつあるため、今後温泉を目的とした旅行をする人が増えるのではないかと考えられる。

  ■新型コロナウイルスの感染状況が改善したらしたいこと
  
  出所:Cross Marketing 新型コロナウイルス生活影響度調査(第14回)
  N=2,500

  ■新型コロナウイルス収束後、旅行先で最も行いたいと思う活動
  
  出所:日本交通公社 新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向(その5)より 
  N=1,472      

 とはいえ、いくら感染状況が落ち着いてきても、混雑する電車等の公共交通機関を乗り継いで遠くの温泉街にいくことには少々抵抗がある人も多いのではないだろうか。それであれば東京23区内や近郊にあり、気軽に楽しめる温泉に行くのはどうであろうか。
 
 「東京の温泉」と聞くと奥多摩等の山間部の温泉を思い浮かべる人も多いと思う。だが意外にも東京・神奈川の都市部にも温泉は存在している。
実は東京都大田区から神奈川県川崎市、横浜市東部にかけての地域は、淡褐色や黒褐色を帯びた温泉(以下黒湯)が出る温泉※地帯となっている。黒湯の成分はアルカリ性で美肌の効果があることから、「美人の湯」とも呼ばれている。

 黒湯を使用した温泉街として、以前は「綱島温泉」が有名であった。綱島温泉は現在の東急東横線綱島駅(1944年までは駅名も「綱島温泉駅」であった)周辺にあり、1955年頃には温泉旅館が70~80軒、芸者が300人にのぼるなど、「東京の奥座敷」とも呼ばれていた時代もあった。だが新幹線の開通や道路網の整備等により、伊豆や箱根方面の人気が高まるにつれ、徐々に客足は減少し、現在では公衆浴場※が数軒ある程度にすぎない。

 しかし綱島駅周辺以外にも黒湯を活用した公衆浴場は今でも各地に点在している。特に大田区では黒湯を使った公衆浴場が15軒(2021年10月時点)ほどあり、コロナ前には黒湯巡りのキャンペーンを実施する等、行政をあげて利用促進に力をいれていた。
大田区の浴場には、銭湯のスタイルで黒湯を楽しめる施設以外にも、サウナや岩盤浴等が併設されている施設や、窯焼きのピザを提供している施設など、単純に温泉につかるだけではなく、さまざまなコンテンツを提供する浴場も多くあり、プチ旅行気分を味わうこともできる。

 実際に私はコロナの感染が広がって以降、なかなか都道府県をまたいだ旅行に行けなくなったため、大田区の黒湯を使った浴場に何度か足を運び、旅行気分を味わっていた。もし皆さんも興味があれば次の週末にでも楽しんでみてはどうだろうか。

※温泉の定義:温泉法では地中から湧出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガスであり、水温が25度以上、または指定成分が一定の値以上含有しているものを指す。
※公衆浴場の定義:温湯、潮湯、または温泉その他を使用して、公衆を入浴させる施設

【参考】
・Cross Marketing 新型コロナウィルス生活影響度調査(第14回)
・日本交通公社 新型コロナウイルス感染症 流行下の日本人旅行者の動向(その5)
・東洋経済ONLINE 2021年1月24日記事
・大田区浴場連合会HP