訪日外客と日本人の海外旅行

2019年1月16日 / 総務課長 山﨑 草平

 近年、日本では訪日外国人旅行(インバウンド)が大きな注目を集めている。2011年の東日本大震災以降、訪日外国人旅行者数は右肩上がりに増加し、2016年には初めて年間2,000万人を超え、2020年までの政府目標であった年間3,000万人を2018年12月時点で早くも突破した。注(1)
 私は、ここ10年の間、香川県の直島・豊島に年5回ほど、美術館訪問を目的に個人旅行している。香川県の直島・豊島では、2010年頃までは日本人の姿が目立っていた一方、外国人は然程多いという印象はなかった。転機となったのは2011年の東日本大震災。その直後には、国内では自粛モードの高まりから被災地の東日本だけに限らず香川県の直島・豊島も閑散とした様子になった。そこから観光客が戻ってきたのは、訪日外国人旅行客の増加によるものが大きいと思う。香川県では高松空港への海外からの就航路線の増加(上海路線(2011年就航、2017年度利用者7.7万人)、台北路線(2012年就航、2017年度利用者7.4万人)、成田国内LCC路線(2013年就航、2017年度利用者19.1万人)、香港路線(2016年就航、2017年度利用者6.2万人))注(2) と政府のビザ発給緩和政策が相まって、私の肌感覚ではあるが、現代アートが観光資源という特殊性もあって、今では直島、豊島の観光客は日本人よりも海外からの旅行者の方が多いといっても過言ではないと感じる。

 一方で、日本の海外旅行(アウトバウンド)への注目は高くはなく、近年は特に若年層の「海外旅行離れ」が話題となることも多いと感じる。実態はどのようになっているのか。
 日本人の出国者数は、1997年に1,680万人、2017年に1,789万人であり、ここ20年は微増で推移している。注(3) 世代別には、1997年の出国者は20代が452万人(27%)でトップ、30代が322万人(19%)で第2位であったが、2017 年の出国者は40代が366万人(21%)でトップ、50代が320万人(18%)で第2位となっており、20代は305万人(17%)で第4位と全世代に占める出国者の割合が低下している。注(4) 一方で、20代の総人口を20代の出国者数で割った20代の出国率は、1997年が24%、2017年が20%と微減であり、20代の海外旅行離れが特に激しいとまではいえない。
 日本人の若年層にとっての激しい「海外旅行離れ」は起きていないことは確認した。一方で、LCCをはじめとした航空各社の新規開設・価格競争によって、この20年の間に海外旅行に対する金銭的なハードルはかなり低くなっている。また、英コンサルティング会社「ヘンリー&パートナーズ」の調査によると日本のパスポートはビザなしで渡航できる行き先数を基準にしたパスポートの強さ指数で190か国・地域となり日本がシンガポールを抜いて単独1位になったと公表された 注(5) ように、世界的にも恵まれた渡航環境も海外旅行の追い風になってよいと思われる。
インターネット環境が整った結果、出掛けなくても海外の最新情報を容易に入手することが可能になっており、これにより海外旅行体験を代替できるのではないかとの考え方もある。しかし、日本でのコト消費の増大や海外からの訪日外国人旅行客の増加に見られるように、実際に現地に赴き実体験を通じて新しい経験や考え方を得ることに価値を求める、相反した傾向も見られる。日本の特に若年層がせっかくの整った海外旅行への追い風を有効に活かし切れていないのは勿体なく感じる。

注(1) 日本政府観光局「報道発表資料」
注(2) 香川県交流推進部 交通政策課「平成29年度 高松空港旅客輸送実績(総括表)」
注(3) 日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数データ」
注(4) 法務省「出入国管理統計」
注(5) 朝日新聞2018年10月11日「日本パスポート「最強」 ビザなし渡航、最下位はあの国」