LGBTとSDGs
9月のある土曜日、渋谷で映画を見ました。インディーズのその作品は、高校を舞台にLGBT当事者を取り巻く周囲の人々を描いたものです。今年の7月に新宿にて1週間限定で公開されたのですが、徐々に上映館を増やしていきました。渋谷の映画館でも8月公開後に何度か期間が延長され、このコラム執筆時(10月初旬)も上映中です。
LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を使った造語です。女性の身体を持って生まれ、自分を女性だと思い、男性を好きになる-あるいはその逆-が多数派を占める中で、そうした多数派とは異なる性的少数者の「総称」です。
少数者と言っても、電通(2015年)や日本労働組合総連合会(2016年)の調査によると日本の人口の7~8%を占めるそうです。8%というのは、日本に多い苗字である「佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さん」の合計より多く、左利きやAB型の割合と同じだそうです。40人のクラスであれば3人はいる計算です。
それからLGBTはあくまでも「総称」です。性の在りようは「からだの性」、「心の性(性自認)」、「好きになる性(性的指向)」、「表現する性」の4つの要素があり、それらの組み合わせになります。いずれの要素も、必ずしも固定的とは限りませんし、「心の性」については、男か女かのどちらでもない、あるいはどちらでもある、決められないという方々もいます。実に多様性に富んでおり、性的少数者のうち典型的なLGBTにあたる人というのはその一部に過ぎません。
翻って多数派の人たちを見ると、LGBT当事者に無理解・無頓着な事例が散見されます。多数派も、「からだの性」と「心の性」が一致し(シスジェンダー)、「好きになる性」が異性であるという、多様な性の在りようの中の1パターンに過ぎないのですが、そうした理解は進んでいません。LGBT法連合会(2015年)による「困難リスト」には、「子ども・教育」「就労」「医療」などの多様な場面で、差別や偏見による生きづらさが並んでいます。
また面と向かって当事者を否定しないまでも、配慮が足りずに、あるいは配慮しすぎて知らず知らずのうちに当事者を傷つけている可能性もあります(冒頭にご紹介した映画は、まさに一人一人の気遣いが当事者を傷つけてしまうことがテーマでした)。
例えば身近に存在しないと決めつけて、揶揄するような冗談を言ってしまうことはないでしょうか。アンケート調査にも、未だに配慮を欠く質問があります。持続可能性をテーマとしたシンポジウムで配布されたアンケートの性別欄には「1.男性 2.女性 3.答えない」と書かれていました。別の会合で配布されたアンケートでも、同居者欄に、婚姻関係にある相手方を示す「配偶者」とだけ書かれた選択肢がありました。
個々人がこうした小さな気づきを重ね、多様な性の在りようを超えて、お互いに尊重しあう社会になっていければよいと思います。これはまさにSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が2030年に目指す「世界のあるべき姿」です。実はSDGsではLGBTの明示はありませんが、ゴール5「ジェンダーの平等」が実質的にはLGBTを含んでいますので、他項目にもまたがります。例えば学校での正しい啓発はゴール4「教育」に貢献し、企業がLGBTに配慮した社内規定を構築することはゴール8「働きがいも経済成長も」に貢献します。
加えて日本には、LGBTへの対応を後押しする大きな契機があります。2014年に改正された「オリンピック憲章」には、人種、肌の色などと並び性的指向による差別禁止が盛り込まれました。今大会の組織委員会による「調達コード」の「人権」のパートでは性的指向・性自認による差別・ハラスメント禁止や、権利尊重がうたわれています。2020年の東京五輪を機に、国や自治体、企業、個人など様々な主体が、理解や取組みを進めることを期待します。
私自身も非当事者のアライ(支援者)として、私にできることは何かを考えていきたいと思っています。
主要参考資料
砂川秀樹(2018).カミングアウト(朝日新書) 朝日新聞出版
渋谷区 永田龍太郎氏インタビュー 第1話~第8話(2017).Heroes of Local Government
「https://www.holg.jp/interview/nagataryutaro/」
柳沢正和・村木真紀・後藤純一(2015).職場のLGBT読本 実務教育出版
LGBT法連合会(2016).LGBT差別禁止の法制度ってなんだろう かもがわ出版
法務省人権擁護局.多様な性について考えよう http://www.moj.go.jp/JINKEN/LGBT/index.html